
!重要! 納期遅延のお知らせ
<納期について>工場の繁忙期にあたり、現在通常より納期を大幅にいただいております。※通常は1.5ヶ月程度後出荷(受注生産)商品によっては早くお出しできるものもございますが、12月以降のご注文につきましては3月以降の出荷となります。オーダー前...
「ねえ、暖炉って本当に必要?」
家の計画を立てていた頃、妻は何度もそう言った。
確かにその通りだった。
このあたりの冬は短く、朝晩だけをやり過ごせばいい。
否定はできなかった。
でも、言葉が、すぐには見つからなかった。
「暖かくするためじゃないんだ。」
しばらく言葉を探して、ようやく声に変えた。
「じゃあ、何のため?」
妻はいつもの笑顔で、でも、困った声で言った。
夜のように深い沈黙がやってきた。
秋の終わり
海に開けたまちは、その明るさと子育て環境の良さから
住宅地が整備され、まあたらしい戸建てがたくさん並んでいる。
男は、そこから車で10分ほど山をのぼった
大村湾を見下ろす丘の上に、小さな家を建てた。
できれば、大村湾がよく見える場所が良かった。
海は、冬になると深い色を帯びた。
夜は風景の真ん中に漆黒の大きな楕円形となりうずくまる。
月夜には銀色に輝いて、別人のようだった。
海の音は、この丘までは届かない。
そう、ただ海が見えるのではなく、静かに眺められるのが気に入って、この場所を選んだ。
音のしない海は、まるで絵画のようだった。
小さな家に家族4人。
毎朝、賑やかに、慌ただしく、朝食をとる。
新卒で入社した会社では仲間と仕事に恵まれ、忙しく過ごしている。
夜、家に戻るとそこはもう子どもたちの声で満ちている。
1日は本当に「あ」と呟く間に終わる。
歳を重ねるほどにそのことを実感していた。
そして彼にとって、何より大切な日常だった。
だからこそ、この家には、いや、彼には、
暖炉が必要だった。
家族が寝静まったあと、彼は一人で暖炉に火を入れる。
薪に火が燃え移るまでの、わずかな間、深く息を吸う。
炎が立ち上がると、音が変わる。
パチ、という小さな破裂音と一緒に、緊張が緩んでいく。
いつからだろう。
日々のスピード感に振り落とされそうだった。
体と心が離れて、取り残された心が、後方に遠ざかっていく。
高速のエスカレーターと、ゆっくり進むエスカレーターが
並行していて、どんどん差が開いていくような感覚だった。
後ろを振り返ってみる。もう一人の自分がどんどん遠くなる。
どんな人間だったのか、見えなくなっていく。
何を考えていたのか、したかったのか、ぼんやりとしてくる。
もっと遠ざかる。見えなくなりそうだ。
「このままでは忘れてしまう。」
そう思った。
そして、昔から、暖炉の火や焚き火を見ると、
寝ているときのような大きくゆっくりとした呼吸になれること、
気持ちが落ち着くのを思い出していた。
暖炉
暖炉の前にいると、時間はゆっくりと流れた。
暖炉は、彼が生きる速さを元に戻すのに必要な装置だった。

暖炉の前に置く椅子を探すのには、少し時間をかけた。
身を委ねて、ただ火を見る時間にふさわしいものがいい。
彼は、暖炉を作ることについて妻の同意を得る前から椅子を探し始めていた。
半休を取り、営業先からそのまま椅子を探しに出かけた。
海辺のギャラリーは、2軒目に寄った店だった。
いくつか座ってみて、
どっしりと厚みのある背もたれの椅子に決めた。
身体が自然におさまる傾斜も気に入った。
好みの生地を選び、引越しの翌日に届く段取りをつけた。
家族の意見を求めずに自分が好きかどうかだけで決めた買い物は数年ぶりだった。
冬
毎晩ここに戻ってくる。
彼はその時間が待ち遠しかった。
ある夜、妻が静かにドアを開けた。
「まだ起きてるの?」
「うん。」
彼は立ち上がろうとしたが、妻は首を振った。
「いいよ。座ってて。」
パチ、と音がした。
薪がはじけた。
「ねえ。」
妻が続ける。
「ここに座ってるとき、顔が違うね。」
彼は、初めてその理由を言葉にした。
「戻ってるんだと思う。」
「何に?」
「俺の速度に。」
妻はあの時と同じようにいつもの笑顔で、少し困ったように
「暖炉、つくってよかったね」
と言った。
「この椅子はアンカーというんですよ」
その椅子の名前を知った時、彼はこの椅子に決めた。
船が港に戻る理由は、留まるためだけではない。
また出ていくために休むんだよ。
いつかテレビで見たドキュメンタリーで、
有名な船の船長が語った言葉を彼は覚えていたし、気に入っていた。
この椅子は彼のアンカーになっていた。
明日も、仕事がある。
慌ただしくて賑やかで暑苦しい、家族の時間もある。
そして夜はここに戻ってくる。
自分の速度を取り戻すために。
日常を大切にするために。
エピローグ
春。
「大村公園の桜が満開だって」
昼休みに、妻がLINEを送ってきた。
妻は桜が好きで、子どもたちは屋台が好きだった。
まだ肌寒さも残る夜に、夜桜を見物しに出かけた。
その晩、夜更かししていた上の子が声をかけてきた。
「お父さんって、いつもそこだね。」
もう、暖炉に火はない。
でも彼はそこにいる。
静かにたたずむラウンジチェア 佇む。その言葉がぴったりのデザイン。控えめながらも、安心感と高級感があります。錨のようにどっしりと。でもコンパクトに。部屋に置きたくなるサイズ感と使い心地にこだわっています。 座り心地にこだわったラウンジチェ…