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And did it my way.

わたしたちは、10年以上付き合ってから結婚した。

その長い春は「早くしないとゴールできないよ」と
お節介な友人や家族に心配をかけた。

迷っていたわけではない。この人しかいない、お互いにそう思っていたはずだ。

ただ、それぞれ仕事があり、暮らしがあり、ペースがあり、好きなことがあった。

一緒に暮らすことや、夫婦になることで
お互いが守ってきたものを手放すことになるかもしれない。

どこかでぼんやりした不安を感じ、
そうならないようにしたいという点で想いは一致していた。
それは「価値観が合う」という言葉で言い換えられると思う。


結婚したのは40歳を目前にした頃。
都心のマンションを、夫婦で購入した。頭金はお互い半分ずつ。残りは夫婦のローンにした。
子どもを持つ予定はない。
「いまどき、40だからって子どもを諦めなくていい年齢だよ。」
姉は遠慮がちにそうメッセージをくれたが

わたしたちは、わたしたち2人が最優先であることに変わりはなかった。


3LDKのマンションは、2人の人生をうけとめて余す所がない広さだった。
お弁当箱に、ぎゅうぎゅうに好きなおかずをつめこむように。
67平米の空間に大切なものを置いていった。


寝室は別々。
12畳のリビングダイニングは2人で過ごす唯一の空間だった。

映画を楽しめる大きなテレビと、3人がけのソファとオットマン。
ダイニングテーブルとアーム付きのチェアはマストだった。
どれほどの密度になるのか想像しながら、納得したものをひとつひとつ買い揃えて行った。

引っ越しの日を迎えても、新居用のダイニングテーブルはまだなかった。
ひとり暮らし時代の小さなテーブルでしのいでいたのは、これだと思えるものにまだ出会えていなかったからだ。

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不便でも、時間をかけて選びたかったのには理由がある。
夫は趣味が料理だったし、夫婦がいちばん濃い時間を過ごすのが夫手製の料理を囲む時だったからだ。

お互いの人生とひとりの時間を尊重する2人にとって
「一緒に過ごす」の象徴である食事の時間は特別な意味を持った。

週末の午後、夫がキッチンに立つ。
夫の趣味は、料理の中でもフレンチだった。

フランス人シェフがまとめたという大きなサイズの本は、
野菜が花のように散らされた美しい表紙で、
夫はその本を先生に生真面目に趣味に打ち込んでいた。

何を作るか決め、気に入りのスーパーでレシピ通りの食材を買い揃え、
手順通りに調理していく。


趣味、とシンプルにいうにはフレンチは時間がかかると思う。
土曜日の夜に、日曜の夕飯の仕込みをすることもある。
それも含めて夫は楽しんでいたし、
その傍で映画を見たり、別のことをして過ごすのは心地よかった。

12畳のリビングダイニング。
その小さな空間で、常に視界にお互いの姿が入っていても
それぞれ自分がいちばんしたいことをしている。


わたしの存在を認めつつも、自分の世界に没頭している夫に、
寂しさを感じるどころか安心できた。
それは「きみも好きなようにしていい」と言われているに等しいからだと思う。
束縛と無縁の関係が、10年の交際期間を繋いできたのだ。

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新居に遊びに来た夫の両親が、新居祝いにダイニングテーブルをプレゼントしたいと連絡をくれた。小さなテーブルを使い続けていることが気になったようだった。決めかねていただけだったが、義理両親には「買えない」と見えたらしい。


義理母はインテリアが好きな人で、何度か遊びに行った夫の実家の家具やファブリックはどれもセンスが良かった。ハイソなマダム向けの雑誌で紹介されていそうなリビングとキッチンだった。


北欧ブランドの有名なチェアに、日本のアンティークテーブル。解体される古民家から貰い受けたというサイドボード。
3人の子どもたちに古希のお祝いにリクエストしたのは、ギャッベだったそうだ。
「子どもたちに譲れるものばかりよ」そう言っていた。

ありがたい申し出に甘えさせてもらいたいとの返事をしたところ、「おすすめです。気に入ったらどうぞ。」とメッセージが添えられた2つのリンクが届いた。

URLをタップしてみた。うちのひとつは義理母の出身地である長崎のメーカーで、川端装飾という会社が手がけるオリジナルブランドだった。初めて知った名前だった。義理母のことだから、てっきり北欧家具のサイトかと思っていたので意外だった。

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長崎に行ったのは中学の修学旅行。
路面電車を乗り継いで、班でせわしく観光地を巡り、平和についてのレポートをまとめた。
子どもの頃は気づかなかったが、大人になってから夫と訪ねた長崎は、まったく別の顔をしていた。
斜面と海がつながったすり鉢畳のまちは、その貴重な平地を路面電車が走り、常に海の気配と香りがしている。石畳に、狭い路地。斜面にぎっしり並ぶ家々。どこを写真に撮っても絵になる、そう思った。

長崎に寄港していたクルーズ船のスケールの大きさには驚いた。最初、船と気づかずに、海辺の大きなホテルだと勘違いしていたことがいちばんの想い出で、そのエピソードは友だちとの会話で何度も登場した。

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川端装飾は、船舶家具や内装の製造からはじまった会社で、クルーズ船の家具を手がけてきたとある。

海の上で使われる家具。波による揺れやねじれに耐えられるタフな家具作り、長い船旅に耐えられる品質、世界のセレブリティを満足させるデザイン。どのフレーズも気に入った。

なぜなら、40歳を目前に、新しい家具を迎える。それは人生が終わるそのときまで付き合う家具を選ぶということと等しかったからだ。そして義理母がすすめてくれた、そのことがなによりだった。

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そのままダイニングテーブル選びは、わたしに一任され、引っ越して2ヶ月が経つタイミングで届いた。

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外が完全に暗くなる頃、ハーブと肉の香りが漂ってくる。

正方形のテーブルに、夫のフレンチが並ぶ。
フレンチ用に買い求めたパキッとした白ベースの丸皿が、落ち着いた木目が映える。

絵画的なサラダに、パイで包んだ肉の料理。
ワインも夫が選んだスパークリングワイン。

2人の夕食には、十分な広さの天板。
4本の脚は、2本の並行するラインで作られていた。
天板から床まで、それぞれにすっと走る。
ツインラインという名前がついたダイニングテーブルは、シンプルに美しかったし
並んでお互いを尊重しているように、そして補い合っているように見えた。


椅子は、夫は1人暮らしの際に実家から持ち出してからずっと愛用する北欧のチェアを。
私は、テーブルと一緒にアーム付きのチェアを買った。イビサという名前のついた椅子は、常に海の気配がある長崎の海辺のイメージと重なった。


前菜からはじまり、冷蔵庫のデザートが出てくるまで、約2時間。
毎週末、2人でテーブルを囲んで過ごすこの時間が、
これまでと変わらない関係を守ってくれる、そう思った。

ワインを1本空けたころだった。
ほろ酔いの夫が、自分の葬式の時にかけてほしい曲があると話し始めた。冒頭から聞いたことのあるメロウな曲。フランクシナトラの「My Way」だった。

「なんでその曲なの?古い曲だよね。」


「気に入った歌詞があるんだよ。」

ーAnd did it my way.(自分のやり方でやり切ったんだ。)


夫は、ロマンチックすぎると思う。

でも、いいフレーズだと思った。わたしたち2人に、似合うと思った。


Twin Line|ダイニングテーブル|ラウンジテーブル

脚へのこだわり
 コントラクト家具として、どこから見ても美しい造形のテーブルを作りました。
特徴は、脚。ツインラインの名前の通り、二つの線で構成された二重構造。
ホテルライクなデザインはソリッド。そこに木の手触りのあたたかみが加わり、バラン…