同じものをください
Instagramに、一通のDMが届いた。
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こちらの動画に映っているソファは、御社のソファでしょうか?
メッセージには、人気スタイリストのルームツアーの動画リンクが貼ってあった。
開いてみると、PRの仕事でよく知られる人の部屋だった。ファッション誌にもコーナーを持っている。
暖かな光の照明。古いレコード、形の違う花器。個性的な額縁に入れられた愛犬との写真。無造作に積まれた大判の書籍。画面のどこを切り取っても様になる。
お金をかけたからといって、こうはならない、美意識のある部屋だった。
その中央に、見覚えのあるソファがあった。思わず動画を止めた。
costa sofaの3人掛けだ。
costa sofaは、自社商品の中でもシンプルなローソファーだった。
削ぎ落とされたラインは、アート作品のような雰囲気を纏う、ロングセラーだった。
社内は少し騒ぎになった。
誰かが紹介したわけでもない。宣伝をお願いしたわけでもない。
私たちの知らないところで選ばれ、いつの間にか、あの部屋の景色になっていた。
DMの送り主には、youtubeの動画を知らせてくださったことへのお礼と、costaのリンク、生地や脚部分の素材を選べる旨を書き記して送り返した。
翌朝、会社にメールで問い合わせが届いた。
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ソファの問い合わせ
隣の市に住む方からの問い合わせだった。
例の動画を見たとリンクが貼り付けてあり、動画のソファと、同じものを購入したいという。
私はもう一度動画を見て、張地と脚の仕様を確かめた。同じ組み合わせで案内できるよう、見積もりを準備した。
週末、メールをくれた女性が、ギャラリーを訪れた。
「動画と、同じにしたいんです。今家を建てていて、こんな雰囲気の部屋になればいいなぁって。」
長崎の静かな海辺のまちを眺める場所に、家族三人で暮らす、中庭のある平家を建築中だった。完成イメージ図や、床材の資料を見せながら女性は楽しそうに話した。
けれど、生地のサンプルを広げると、女性の指は別の布で止まった。
日常の汚れを手入れしやすい、自然な風合いの生地だった。
「子どもが、まだ小さいので。」
脚も、動画に映っていた金属ではなく、木目の明るいオークを選んだ。
「床には、こちらのほうが合いそうですね」
動画のcostaと、同じものではなくなった。
その後も、メールが続いた。電話も入るようになった。
黒い服を着た男性は、毛足のある柔らかな生地を何度も撫で、黒く仕上げた木の脚を合わせた。「夜しか家にいないんです。灯りを落とすと、これが一番きれいに見える気がする」
海辺の古い家に住む夫婦は、丈夫なキャンバス地と、木目の表情がやわらかなセンダンの脚を選んだ。少しくらい砂がついても気にならないものがいいと選んだ。
犬が二匹いる女性は、手入れのしやすいスエード調の生地を選んだ。
本と絵に囲まれて暮らす老夫婦は、落ち着いた再生ウールの張地に、細いスチールの脚を合わせた。硬めの座り心地で長時間座っても疲れにくいことを伝えると、本読みのわたしたちにぴったりねと目を細めた。
ホテルのような部屋にしたい人は、太い織りに模様が浮かぶ上品な布を。
古着が好きな青年は、デニムのような表情のある生地を。
革靴職人は、本革に近い質感のソフトレザーを選び、脚だけは明るいオークにした。
注文票には、同じ名前が並んだ。
costa sofa 3p
けれど、工場から姿を現すのは、どれも全く違うソファだった。どれも持ち主に似ていた。
納品後に送られてきた写真を、私は壁に並べた。
子どもの靴下が落ちているcosta。
大型犬2匹に占領されたcosta。
読みかけの本が置かれたcosta。
大きな窓から海を見ているcosta。
美術館のような空間に静かに置かれたcosta。
選ぶ人が違えば、同じ形は、こんなにも違う顔になる。

また、ある日、InstagramにDMが届いた。
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こちらの動画で見たソファを探しています。
私は生地のサンプルを机いっぱいに広げた。
センダン、オーク、黒く仕上げた木、スチール。それぞれの脚の素材も並べる。
そして、返信を書いた。
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このたびはお問い合わせいただき、ありがとうございます。
こちらは、当社の「costa sofa 3p」です。
生地と脚部をお選びいただける、セミオーダーの商品です。動画と同じ組み合わせはもちろん、お部屋やお好みに合わせたご提案もできます。
一度、サンプルをご覧になりませんか。
動画が投稿されてから1年が経つ。20台を超えるcosta sofa 3pを送り出した。
「動画と同じものを」と問い合わせた人は、結局、誰一人として同じcostaを選ばなかった。
(終)