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いつもの選び方

ソファを新調することになり、この家を設計してくれた建築士に相談した。

葉山の一角に土地を買った。
海が部屋の奥からも見えるように大きめの窓を作ってくれた。
部屋の広さも、窓から入る光も、床や壁に使った素材も、よく分かっている人だ。


安心して任せられると思った。

しばらくして、いくつかの候補が届いた。

海外の有名なブランド。著名なデザイナーの代表作。ほとんどがインテリア雑誌でみたことがあるもの、半分は名前が分かるものばかりだった。

どれもいいものだし、いかにも社長の家にありそうなソファだった。
値段も、買えないわけではない。

すすめられたソファにすれば、部屋はきっと立派に見えるだろう。
見る人が見れば、いい家具を選んだことも分かるだろう。

それでも、決められなかった。
ブランド名もデザイナーの名前も、決める理由にならなかったのだ。


20年前。

会社を始めた頃、私には何もなかった。

名刺に書けるような実績もなければ、会社の名前を知る人もいない。
借りた事務所に机を並べ、3人で、目の前の仕事を一つずつ終わらせていった。


少しずつ仕事が来るようになった。
仕事の相手を、会社の大きさや知名度だけで選ぶことはしなかった。

発注する側になる時も、そうした。
もうひと手間をかける人。
頼まれていないことでも、必要だと思えば知らせてくれる人。
そういう人たちと仕事をしてきた。

数年が経った。

事業の規模はもっと大きくなった。
営業に来る会社は誰もが知る名前になった。
それに張り合おうと会社をもっと大きく見せようとした時期もある。立派な事務所を構えれば信用してもらえると思ったし、短期間ではあるもののタレントを起用した広告で知名度を上げようとした時期もあった。

けれど、結局、ここまで会社を残してくれたのは、泥臭く地味な事実だった。

約束した日を守る。
人が見ていないところでも、手を抜かない。
何かあったときに、逃げずに向き合う。

あたりまえのことを積み重ねるうちに、それが信用になった。
仕事が増え、人が増え、会社はいつの間にか、会社はずいぶん大きくなっていた。

FLOWを知ったとき、私はソファの形や名前よりも先に、
それが生まれた背景に興味を持った。

手がけているのは、長崎で船の家具をつくってきた職人たちだという。

限られた船内のスペースに、家具をきちんと収める技術。
揺れる船の上で求められる頑丈さ。
長い時間、人の身体を預かる包容力も求められる。

派手ではない。その職人たちの名前が表に出るわけでもない。
でも確かな腕が求められる。

自分の仕事と、どこか重なる気がした。


あるセレクトショップにある黒の本革。低い重心に、どっしりとした存在感。
深く腰を下ろす。
三人がけの十分な広さがある。座面には、身体を受け止める厚みと、沈み込みすぎない弾力があった。

背中を預けると、余計な力が抜けていく。

そのまま横になってみたくなった。ここで眠りに落ちるのは、きっと心地よいだろう。


黒革のFLOWを注文した。届くのは、2か月後だという。
すぐに届かないことを、残念だとは思わなかった。

何かを確かにつくるには、その仕事にしか使えない時間がある。
急げば省ける時間と、急いではいけない時間があることを知っているつもりだ。


名前の大きさより、仕事の確かさ。
目立つことより、長く信頼されること。
早く仕上げることより、必要な手間を惜しまないこと。

私は昔から、こういうものに惹かれ、選びながら生きてきたのだ。